2020年3月17日 (火)

※本ページでは、第21回図書館総合展で開催のフォーラム「読書バリアフリーは知をすべての人に開くか?」(2019年11月14日)について、そのテキスト記録と投影資料を公開しています。

このフォーラムの概要については、こちらをご覧ください。

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報告者:

パネリスト : 阿部 健二(株式会社ベネッセコーポレーション事業戦略本部事業開発部特別支援教育事業開発プロジェクト プロジェクトマネージャー)
パネリスト : 木谷 恵(京都大学学生総合支援センター障害学生支援ルーム コーディネーター)
パネリスト : 鷹野 凌(HON.jp News Blog 編集長)
パネリスト : 関根 千佳(同志社大学・放送大学 客員教授、ユーディット 会長)
司会 : 植村 要(立命館大学人間科学研究所 客員研究員)

  • 主催:図書館総合展運営委員会

◆当日配布資料

☆本ページ最下のリンクよりダウンロードしてください。

 

 

1. 登壇者によるプレゼンテーション

 

 

植村: 皆さんこんにちは。これからフォーラム「読書バリアフリーは知をすべての人に開くか?」を開催させていただきます。たくさんの皆様がお集まりくださいまして、どうもありがとうございます。

 今日のフォーラムでは、主に学術書を視覚障害者等がどのように読んでいくかをテーマにさせていただきます。視覚障害者等というのは、視覚障害のある人や、ディスレクシアといって、視力はあるのですが、文字が文字として読めない方のことをいいますが、そういった方々が本を読むときにどのような工夫をしているか、あるいは、どのようなサポートを必要としているのかというお話をさせていただこうと思っています。その場合の本につきましても、今日は、全ての本というよりは学術系の本、つまり、受験をするときの参考書であるとか、大学に入学してから授業で使う本や、その参考に用いる本を主に扱っていこうと思います。それと申しますのは、本の範囲を、マンガや雑誌、図鑑、あるいは人気作家の文芸書などまで広げますと、それぞれに事情が異なってきます。そこで、必ず必要になり、かつ、よりニーズが高い本ということで、学術書に絞りたいと思っております。

 まずは、このフォーラムの主旨をお話させていただきます。今年の6月に読書バリアフリー法という法律が成立、施行されました。この法律は、数年前から視覚障害者等の団体が要望していまして、政治関係の方々に働きかけをしてきて、成立したものです。ですので、視覚障害等の人たちがどのように本を読んでいるかという観点から見ると、非常に分かりやすい法律になっています。どのようにニーズを満たすかがよく考えられた法律になっていると思います。

 ただ、既存の法律に照らし合わせると、複数の法律にまたがった内容になっていまして、少しわかりにくいところがあります。そこで、スライドに示しましたように、縦軸と横軸を設定して、四つの枠を作り、第9条から第17条までの条文を当てはめてみました。第9条から第17条は、基本的示唆とされている部分であり、こういうことをやって下さいということが書かれている条文です。

 内容としまして、出版社に関する規定が書かれた条文と、図書館に関することが書かれた条文に、まず大きく分けられますので、それを縦軸に示しました。

 横軸は、著作権法第37条が規定する著作権制限に基づいて制作されるものか、あるいはそうではないものかということで分けました。つまり、視覚障害者等が本を読む場合、点訳、音訳といった方法を使うのですが、著作権法第37条は、点訳、音訳をする際に、著作権者に許諾を取らなくてもいいとしている条文です。許諾を取らなくてもいい代わりに、その点訳、音訳した本を利用できるのは視覚障害者等に限られます。読書バリアフリー法には、この著作権法第37条に基づく媒体変換に関する条文と、電子書籍や電子図書館などの一般の市場に出回っている本に関する規定とが混在しています。そこで、これらを右と左とに分けました。

 次のスライドと、その次のスライドは、著作権法第37条の変遷を示したものです。この第37条は、この10年ほどの間に著作権制限の範囲を拡大する方向での改正が行なわれました。それを表にまとめたものですので、お時間があるときにご覧いただければと思います。

 今日は、これから4人の方に順にプレゼンをしていただきます。前半のお二人には、事例としまして、ご自身が担当しておられます業務をご紹介いただき、後半のお二人には、コメントをいただくという形でお願いしています。4人のお話は、この四つの象限の全体にわたりますが、どの象限に比重がかかっているかが、少しずつ違います。最初にお話していただく阿部さんは、ベネッセにお勤めです。ベネッセは出版社ですので、この表でいうと主に右側のほうにあたる部分をお話いただきます。次に、京都大学の障害学生支援室で障害のある学生さんに対するサポートをされています木谷さんにお話しいただきます。木谷さんには、この表でいいますと、左側に関わる部分でお話いただこうと思っております。

 その後に、鷹野さんと関根さんにコメントをお願いしています。鷹野さんは、出版関係のジャーナリストというか、出版に対する批評をされている方ですので、この表でいいますと、右側に関連する部分でコメントをいただこうと思っております。関根さんは、現在、サピエ図書館と呼ばれているものの前身である「てんやく広場」を作ってこられた方ですので、この表でいいますと、左側に関わるところでコメントをいただこうと思っております。

 こういった役割分担で4名の方にプレゼンしていただき、その後、後半では全員でディスカッションをしていきたいと思っています。90分になりますけど、お付き合いのほどよろしくお願いします。

 それでは早速プレゼンを始めたいと思います。では、阿部さん、お願い致します。

 

 

阿部: ベネッセの阿部でございます。よろしくお願いします。本日、私からは弊社でどのようなアクセシビリティに関する取り組みを行なっているかと、教育にまつわるアクセシビリティ、という点について話そうと思っております。

 

 自己紹介になり恐縮ですが、私、今日も何名かいらっしゃっていますが、元は市ヶ谷にある印刷会社で技術研究職をしておりました。そこからベネッセに入ったという経歴になります。弊社には「こどもちゃれんじ」「進研ゼミ」をはじめとするさまざまな学習サービスがありますが、そういった学習サービスの裏側で、コンテンツのデジタル化とアーカイブに取り組んでまいりました。その中の商品の一部で行ったのはマルチメディア対応、難しく言うとコンテンツとプレゼンテーションの分離です。商品が印刷メディアからデジタルに移行していく中で、我々の持っているコンテンツ資産をどうやってアーカイブして多メディア対応していくかという課題に対し、コンテンツとプレゼンテーションの分離することで企画の具現化やスピード、コストの課題の解決をしてきました。問題文のテキストには装飾のないXMLの意味タグを付け、webに出すときにはHTMLに変換、紙に出すときには太ゴシックの20級にするというようにメディア毎、商品企画毎に内容には手を入れずにスタイル・体裁を付与していきます。そのように構造分離することで、ページ数に換算すると数十万ページ規模の学習コンテンツのマルチアウト、アーカイブを実現してきました。

 この話が今回の個に適応するアクセシビリティの話につながっていくわけです。これまではずっと事業や商品企画の裏側でサポートをしてきた訳ですが、テクノロジーの進化とともに我々のようなエンジニアサイドはアクセシビリティに対する感度がかなり高くなってきたように思います。ただ、事業サイドで教育のコンテンツを作る編集部はその感度がまだまだ低いのが現状だったりするのです。そのように企画側と、エンジニア側との想いがアンマッチする部分があることが起点になり、現在の事業開発に取り組むことになりました。この話は後ほどお話します。

 現在ベネッセが提供している「まなびライブラリー」は、進研ゼミの小学講座、中学講座、高校講座の会員の方限定の電子書籍、動画閲覧し放題のサービスです。約1000冊の本があり、それ以外にもニュース動画の配信や音楽配信などもあります。先程言ったように私はサービスを立ち上げる段階にエンジニアとして裏側で携わらせていただきました。「まなびライブラリー」は、あらゆるデバイスからアクセスできるようマルチデバイス対応になっております。この1000冊も、常に入れ替わっておりまして、子どもに人気のある旬の動画や本、学習マンガ、各出版社さんが推薦する本なども提供しています。利用者数は、進研ゼミ会員のうち85万人が登録、月次の利用ユーザーは35万人という状況です。小学校1年生から6年生までの学齢期の子たちが使う学習読書端末としては、おそらくNo.1だと思います。学習機会、読書の機会をどうやって作っていくかという社会の課題に対しても、ある程度貢献できているのではと思っております。

 一方、アクセシビリティの面では課題もございます。先程画面を見ていただいたユーザー認証と本を選ぶためのwebサイトは自社で構築しておりますが、本の配信に関しては、ある配信会社さんにビューアとセットで提供していただいています。このビューアが文字拡大などはできるのですが、まだ十分なアクセシビリティを担保できている状況ではありません。ここをアクセシブルにしていくことを考えているのですが、費用面やシステム面において切り替えは容易ではありません。

 もうひとつ、学習環境におけるアクセシビリティということで、1枚書かせていただきました。これは電子書籍に限らず、学習アプリ、Webアプリ、学習端末など、すべてに関わる話です。いわゆるWEBアクセシビリティ機能として、例えば文字拡大とか、白黒反転とか、DAISYのようにメディアを読み上げるという機能を使って、文字の読みをサポートする機能があります。しかし、こと「学習」という面を考えると、いわゆるアクセシビリティ機能でサポートできるところと、そうではない部分があると思います。視覚や聴覚が不自由という方に対して、ICT機器はかなり役立つようになってきていると思います。課題はアクセシブルなコンテンツが著者や出版社側が提供できてないことが課題だと思うのですが、技術自体は進化してきたのではないでしょうか。一方、発達障害と呼ばれるADHDとかASDの子たちの学習しづらさ、アクセシビリティということを考えると、集中力の課題や学習に取り組む意欲等の面で、学習コンテンツの量を変えてあげたり、ヒントを多く出してあげたりという個別の調整が必要になってきます。そうすることによって自己肯定感を持ち、教材を活用できることにつながって来るのです。これが広義の「アクセシビリティ」だと考えています。おそらく皆さんも子どもの時にクラスに読みが難しい子もいたと思います。彼らの自己肯定感が失われていってしまった結果、現在、社会課題になっている不登校やいじめ、非行というような二次障害ということが出てくることがあると耳にしました。

 現在ベネッセでは、文字を拡大したり白黒反転したりすることに加えて、その子によって学習の量や時間を変えてあげたり、ヒントを出すタイミングを変えてあげるというサービスを考えています。児童の困りごとや特性、発達のステージによっては文字を書こうとしただけでも丸にしてもいいのではと考えています。そういった印刷メディアではなかなかできにくいことを、ICTを使って実現しようというのが、今、私が考えている学習サービスになります。学力向上や学習力といった「パーソナライズ」ということがよく言われていますが、パーソナライズのアプローチがアクセシビリティによって大きく変わってくると考えています。

 改めて先程話したXMLの話をもう少し詳しくお話しようと思います。進研ゼミには様々な学習コンテンツがあります。ドリルであったり暗記であったり、いわゆる講義のような紙面であったり、さまざまな媒体があります。講義のような「理解」を目的とした紙面としては、これはベネッセが始めたことかもしれませんが、キャラクターが出てきて教科内容を説明するものがあります。にぎやかな紙面で戦国武将キャラが説明するという紙面を作ると、残念ながらアクセシビリティはどんどん下がっていきます。マルチメディア対応をするためには文書構造化が必須なのです。ドリルや暗記のような学習コンテンツは問題と回答、解説、素材文、選択肢というような文書構造を持ちますから、その全部にXMLのタグを付けています。これによって、多媒体の制作、いわゆるマルチメディア対応することができるのです。マルチメディア対応させるということは、リフロー型のアクセシブルなものにも対応できますから、「どこでも学習できる価値」や「制作の効率化」と同時にアクセシビリティを実現できていることになります。我々はこういった二兎を追うことをベースに考え、実践しているということです。

 最後に、学習に対するアクセシビリティということでまとめさせていただきました。テキストで構造的に文章を作ることは、障害を持つ方だけではなくて、全ての人にとって読みやすくなります。またアクセシビリティを考えたときに、我々自体が標準規格を作ることはできませんから、世界標準で既にあるものを使いながらやっていきたいと考えています。加えて個性や障害の凹凸に合わせたパーソナライズ、つまり学習の調整機能がどうしても必要になってきます。学習をアクセシブルにするということでいうと、取り組みにくさから本を開かなかったらもうアクセシブルではないのです。意欲を持って開けるようにしてあげることが学習に対するアクセシビリティなので、それをしっかりやっていきたいということです。加えて、これはとても重要だと考えているんですが、こういったことをCSRでやる企業はもしかしたらあるかもしれませんが、ビジネスとして成り立つことが一番大事だと思います。これによって継続的にサービスを提供できるようにしないといけません。お話ししたサービスに関しては、現在検討段階でございまして、うまくいけば近い将来、皆さんに届けられるかと思っています。

 私の話は以上となります。ありがとうございました。

 

 

植村: ありがとうございました。次に、木谷さん、ご報告の準備のほうをお願いできますか。

 

 今、阿部さんから最後にお話ありました、CSRではなくてビジネスとして成り立つものでなくてはと言われたあたりにつきまして、これは、出版社が民間企業である限り必ず必要なところだと思います。ここがうまくいかないということで、出版社から投げ出されてしまうと、大学にいる視覚障害や発達障害、学習障害の方々は、自炊など、自助努力でなんとかしなくてはならないということになります。あるいは、大学の障害学生支援室のサポートでなんとかしなければならない事態になるわけです。

 では、大学で、視覚障害や発達障害の学生さんたちが、どういったサポートを受けて本を読んだり勉強をしているのかというあたりについてお話いただこうと思います。木谷さん、お願いします。

 

 

木谷: 皆様、こんにちは。ただいまご紹介にあずかりました、京都大学学生総合支援センター障害学生支援ルームでコーディネーターをしています木谷恵といいます。よろしくお願いします。

 

 先程の阿部さんのお話は、未来に向けて、学齢期の子どもたちに対して、一歩も二歩も進んだお話だったかと思います。私のパートでは、高等教育機関、大学における一読書環境の実態について、昨今、特にその割合が増えている障害のある学生たちの読書環境についてお話したいと思います。

 まずはじめに、先程増加していると言いました障害のある学生の状況を簡単にお話しします(スライド3枚目)。日本学生支援機構による「障害のある学生の修学支援に関する実態調査」のグラフを表示しています。国連が2006年に障害者の権利条約を発行したときから毎年この調査が行われていて、この表では2006年から2018年までの14年間の障害学生の在籍状況の推移を表していますが、明らかに増加の一途をたどっていることが分かります。昨年度は全学生に占める障害のある学生の割合が1%を超えました。実際調査の開始時点から7倍近い数字になったわけです。ただ、例えば、欧米と比べるとその10分の1程度、また日本の国民に占める障害のある方の割合も7%程度ということを考えると、この1%という数字は決して大きな数字とは言えません。これからもますます増えていくだろうと予測されます。

 では、なぜ障害のある学生が増えているのか(スライド4枚目)。平成28年(2016年)に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」がスタートしました。大学ではこのことが非常に大きかったと言えると思います。これによって全ての高等教育機関において「障害者の差別的取り扱いの禁止」と「障害者に対する合理的配慮の不提供の禁止」が求められ、国公立大学では法的義務となったからです。ですので、障害のある学生が増えたのは、この差別解消法を含む一連の法改正と、社会情勢の変化が非常に大きかったと言えます。今まで大学への進学が選択肢になかった障害のある人たち、かなり重度といわれる人たちも含めて、進学できるようになりました。

 それを受けて、大学の側も、今、非常に意識が変わっている移行期にあると言えます。つまり、そもそも障害のある学生らに支援をしなければならないのかという合意形成をしていた段階から、具体的にどういう支援をしていくべきなのかという調整の段階へと意識が変わりつつあると仰っている方もいます。ですので、残念ながらといいますか、こういった法律の存在は大学にとって大きかったと言えます。

 さて、今回のフォーラムのテーマである読書バリアフリーに関して、我々大学でも障害のある学生らに対して、書籍のデータ変換、データ提供を行なっているわけですが、こうしたことを行う根拠がどこにあるかと言われますと、差別解消法における合理的配慮の提供の一環であるということがポイントになります。

 合理的配慮とは何かと言いますと(スライド5枚目)、長々と書いてあるんですけれども、障害のある学生が他の学生と同じように、機会の平等を確保するためのものであって、それぞれ個々のニーズに応じて、その学生らが学べる環境を作っていく、調整していくというものです。

 京都大学における障害学生支援について、簡単ですが概要をご紹介します(スライド7枚目)。こちらに今3枚の写真が映っているんですけれども、この右側が京都大学の障害学生支援室の中の写真になります。ここに今8名ほどのスタッフがおります。大学の中にこういった障害学生支援の専門部署があるわけです(スライド9枚目)。大学の中の第三者組織というような位置づけで、障害のある学生と所属する部局や教員の方々との間に入って、さまざまな調整をしています。スライドの下に主な支援を書いていますが、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、発達障害、精神障害の学生らにさまざまな支援を日々提供しています。

 現在の京都大学の障害学生支援の利用学生数は、だいたい2桁後半ぐらいになります。もう少し軽微な相談対応とかも合わせますと、3桁になります。ただ、それでも全学生数が約2万人いますので、先程の統計の数値から考えるとまだまだ少ないと言えます。ですので、この2倍から3倍ぐらいの障害のある学生がいると考えられます。

 その中で、書籍をデータで読めたほうがいい可能性のある学生には、視覚障害、手が動かしにくいといった肢体不自由の学生、識字障害のある発達障害のある学生らが考えられます。

 ここから本題になります(スライド11枚目)。実際に京都大学で行なっている紙の書籍をデータに変換する方法やその状況について、詳しくお話させていただきます。まずはざっと作業の手順ですけれども、スキャンをして、校正をして、最後に学生に送付するまでのこの一連の流れを、障害学生支援室と大学の図書館が連携して行なっています。この中でも特に時間がかかるのが校正です。ここがやはり非常に難しいですし、時間もかかります。

 私たちがその校正作業をするときに参照しているのが、国立国会図書館が公開している仕様書です(スライド12枚目)。

 ただ、いろいろな例外が日々発生します。図書館の方はそうではないかと思いますが、私たち支援室のスタッフは校正に関してはまったく素人です。本当にできているのかというと、できていないんだろうなと、正直思います。毎度どうすればいいのか悩み、迷いながら進めている状態です。先ほど大学図書館と協働してやっていると言いましたが、役割分担をしながら、主に書籍なんかは図書館のほうで、毎回の授業で配布されるプリントといった資料のデータ化は支援室で行っています。授業では紙で配布されるものも沢山あるので、それらのデータ化を私たちがしているわけです。そういった役割分担をしながら、日々メールや電話で図書館とお互いに確認し合いながら進めているような状況です。

 校正作業で困ったことについて、その一例をお話したいと思います(スライド13枚目)。校正のプロの方もいらっしゃると思うのでお恥ずかしい話ではありますが、例えば洋書の中で使われている「ダッシュ」記号について。ダッシュだけでも欧文のダッシュと和文のダッシュがある。欧文のダッシュの中にも「enダッシュ(エンダッシュ)」、「emダッシュ(エムダッシュ)」というものがあったり、「ハイフン」があったり、一見同じ棒線に見えるものでもさまざまな種類があるんですね。それらが文脈で使い分けられていることも知らずに校正していたこともありました。こういうのも一つ一つ確認して、そのルールを発見して進めていくのに、ご想像のとおり非常に時間がかかるわけです。

 二つ目の「二つの校正ルールの狭間で」というのは、いまだ校正のルールがしっかりと確立していないところからくる問題で、先程もお話した通り、私たちは国立国会図書館で公開されている仕様書を参考にしているんですが、ここに書かれているルールが相反するように思われることがあって、その度に、これはどちらのルールを採用して進めればいいのか迷ってしまうわけです。

 それから三つ目にコストの話です。このことも今日はお話させていただきたくて(スライド14枚目)。本当に時間をかけて迷いながらやっている作業なので、例えば250ページ程度の和書1冊に約200時間かかっています。作業には、支援室のフルタイムスタッフ1名が月140時間ほど、学生のアルバイトも10名ほど雇ってシフトを組んでやってもらっているんですが、その両者をあわせて計200時間ぐらいかかる計算です。人件費だけで考えても30万円程度。つまり1ヶ月で1冊程度しかできないような計算になります。これは、国立国会図書館の仕様書に沿って校正をできるだけ厳密にやった場合の話ではありますが、それでもこれだけのコストがかかっているということは、お金の話ではなくて、それぐらいの数の書籍しか学生に提供できていないということです。

 ほかにもさまざまに問題がありますが、コストの問題は非常に大きい。どうすれば解決していくのかということですが、例えばある書籍をデータ化して欲しいと言われると、支援室では、一からコピー機でスキャンを取ってOCRをかけてやるんですが、もし出版者のほうでなにかしらのデータがあれば、それを提供してもらえるだけで、最初の段階は随分と省けるわけです(スライド15枚目)。なので、毎回出版社にお電話させてもらって、データを提供してもらえないかとお願いしています。今のところまだ数は少ないんですが、ほとんどの出版社の方が応じてくださっています。もちろん難しいところもありますが、事情を説明したらデータを提供してもらえる場合もあります。ほかにも、国立国会図書館でデータの送信サービスをされているので、そういったものを使うことも考えられます。支援室だけでなんとかしようとするんではなく、外注も含めて検討していきたいと思っています。

 コストの問題は先述のとおりですが、ほかにも正確性の問題があります(スライド16枚目)。つまり私たちは校正のプロではないので、不十分な点が沢山あるだろうということです。それを京都大学の学生が論文を書くときに引用して、その文章を載せたりするわけです。そこに間違った文章が載るのは非常に問題です。ほかにも例えば、図表のある資料も沢山あるので、そこに校正者の「注」という形で説明を付けていきますが、それもグラフや表のことを分かってないと的確な説明を付けられません。時間もかかりますし、正確かどうかも問われます。

 それから専門性の問題もあります。どういった校正のルールでやっていくのがいいのか。それがまだ未確立だと思いますし、さっきも申しましたように、学生アルバイトであったり、短期間雇用の方に作業をお願いしている現状があるので、専門性を確立するのは難しい状況です。

 最後に、結局は、社会的な知的財産とも言える文献について、大学の役割、責務の範囲はどのようなものなのかを考えられたらと思って、今日は来ました。実際に試行錯誤をしていますが、正直それほど成果が上がっているとは思えません。データ化できている書籍の数が本当に少ないからです。障害のある学生が読みたい書籍のいったいどれほどの数を提供できているのかというと、悲しい状況にあります。もちろんできることはやっていきますが、社会全体で見たときに、大学でデータ化している今のような仕組みがベストなのかどうかを考えられたらいいなと思います。ありがとうございました。

 

 

植村: 木谷さん、いろいろとお疲れ様です。では、引き続きまして鷹野さん、ご準備をお願いします。

 

 皆さん、今、お聞きになって、どうでしょうか。率直なところをベタにそのまま言ってしまうと、ばかげてると思われませんでしたか。つまり、出版社や印刷会社には元々本のデータがあるわけです。そのデータを印刷して紙の本を作るわけです。出版社からそのデータがもらえないために、いわば末端といいますか読者のところでは、その紙の本をスキャナで写して、OCRソフトでまたデータにする作業をするわけです。その作業が、先ほどのダッシュの話のように、非常に細かで、目が疲れる作業をするわけです。出版社あるいは印刷会社にはデータがあるのに、わざわざ紙の本から消耗する作業をしてデータを作っているんです。今日、フロアには、出版関係の方も図書館関係の方も多くいらっしゃると思います。これって、このままでいいのかとお考えになっていただき、こういった現状についての認識を少しずつでも広めていただけたらと思います。

 出版社が協力してくれるといいのですが、なぜ進まないのか。先程、阿部さんからはベネッセの状況についてお話いただきましたが、出版全体を見回すとどのような状況にあるのかということを、鷹野さんからお話いただこうと思います。

 

 

鷹野: こんにちは。まず自己紹介をさせてください。HON.jp News Blogの編集長をやっている、鷹野凌といいます。NPO法人HON.jpの理事長でもあります。

 

 HON.jpは、「本(HON)のつくり手をエンパワーする」というビジョンのもと、これから本を作ろうとしている人々に国内外の事例を紹介して、デジタルパブリッシングを含めた技術を提供して、意見を交換して仮説を立てて、新たな出版に踏み出す力を与えることをミッションとしたNPO法人です。どんな事をやってるかといいますと、HON.jp News Blogというウェブメディアで、本の作り手を主な対象とした記事を配信しております。メールマガジンもありますので、ぜひアクセスいただいて、ご登録いただけたらうれしいです。

 このメディア事業のほかに、セミナーや講習会、ワークショップなどのイベント事業もやっています。毎年行なっている出版創作イベント「NovelJam」というのが一番大きなイベントで、著者、編集者、デザイナーがその日に集まって、お題に従って小説をゼロから書いて、編集校正してデジタルの本を作って売るところまでを、2日とか3日間でやる、いわゆる小説のハッカソンです。そういったイベントから生まれた本ですとか、以前からやってる本の出版事業などもやっている、そんなNPOです。自己紹介は以上です。

 さて、今日の私の役割としては、HON.jp News Blogというメディアをやっていて、出版業界全般を浅く広く知っている立場です。それゆえ、出版産業の現況について概略を話して欲しいという要望をいただきました。紙と電子、その両面からご説明させていただきます。細かい数字は読み上げている時間がありませんので、資料をのちほどゆっくりご覧いただければと思います。

 まず紙の出版市場ですが、2018年の数字で言うと、このようなグラフになります。20年来、右肩下がりです。ポイントは、書籍と雑誌が逆転していること。昔は雑誌のほうが市場は大きかったのですが、今はもう書籍のほうが上回っています。つまり、雑誌のほうが落ち込みが激しく、書籍のほうはまだ堅調ということです。

 次に電子出版の市場です。2018年は全体で2474億円、対前年比も二桁%増と、ここしばらくずっと伸び続けています。ただ、そのうち電子コミックが1965億円で市場占有率79.3%。書籍、いわゆる文字物に関しては、まだ321億円という小さな市場です。紙と合わせて考えると、文字物の電子市場は、2.1%というのが現状です。

 では利用率に関してはどうなのか? といいますと、男女とも30代がコアで、次いで20代の利用率が高くなっています。また有料/無料で分けると、女性はやや無料の利用率が高い、という数字になっています。

 また、そういう電子書籍が配信されている書店、あるいは、アプリの利用率について。1位がAmazonのKindleストアで、24.2%。2番手にLINEマンガ。この右側に書いてありますが、総合型というのは、文字物もマンガも雑誌も全部扱っている書店です。マンガアプリと書いてあるのは、基本的にマンガだけを扱っているところです。つまり、こちらはマンガと総合型が混ざったランキングになっています。ちなみにこれは複数回答可なので、上位2つを足して50%のシェア、というわけではありませんので、ご注意ください。

 この電子出版のマーケティングを考えてみたとき、マーケティングの4Pという概念があります。まず、そもそも売っていないものは買えない。これは、私がこの出版業界のメディアに関わるようになってからずっと言い続けていることですが、商品が売ってなければ買えない。売ってなければ市場が伸びない、というところが、電子出版の市場拡大を考えたときに、足を引っ張っている状況です。

 では電子化率はどうなっているか。こちらは亜細亜大学の安形さんと、元慶應義塾大学の上田さんが書かれた論文の数字ですが、2017年に発行された出版物で、まだ36.8%しか電子化されていません。コミックの電子化率は、比較的高いんです。3分の2くらいが電子化されている。文庫、新書あたりも比較的高いのですが、単行本は11.7%と、まだ全然電子化されていません。

 ただ、先程の阿部さんのベネッセさんもそうでしたけど、講談社、小学館、集英社、KADOKAWAあたりの大手出版社は、非常に積極的に電子化を進めてます。2017年の発行タイトルで見ると、小学館で67.4%、KADOKAWAは84.6%と、結構高い比率を示してます。つまり裏を返せば、中小出版社ほど電子化が進んでいないことになります。

 なお、講談社、小学館、集英社、KADOKAWAなどの大手出版社は近年、デジタル部門のおかげで増収増益になっている、というニュースが次々出てくるような状況にもなっています。

 さて、このデジタル出版で用いられる主なファイル形式について、改めてご説明します。PDFは、一般的にも非常によく使われているフォーマットですね。ただ、PDFは、アマゾンのKindleストアで扱ってもらえないというのが大きなポイントです。アクセシブルなPDFなら合成音声読み上げが可能ですが、Kindleストアはスマートフォンのような小さいデバイスの閲覧を考慮して、リフロー形式じゃないと駄目だ、ということになっています。PDFでの入稿は、受け付けてくれないんです。マンガや写真集のようなものでも、PDFではなく、固定レイアウト形式のEPUBでの入稿が求められます。

 では、文字モノはどういうファイル形式で作るか? というと、リフロー形式のEPUBです。EPUBならKindleでも受け付けてくれますし、他の電子書店もほとんどのところはEPUBに対応しています。そのため、デジタル出版ではEPUBでの制作・入稿がデファクトスタンダードになっています。リフロー形式であれば、合成音声読み上げも可能ですし、また、文字を大きくしても読みやすいです。

 他の形式ですと、オーディオブック。こちらも最近は、特に注目されつつあります。オトバンク「audiobook.jp」の会員数が、今年の9月で100万人を突破して、新規登録数も前年比3倍に伸びています。とはいえ、まだ市場としては年間50億から60億程度と推定されていて、まだまだこれからという状態です。

 DAISY図書については、この場での説明は要らないですよね。

 あとは、各電子書店のアクセシビリティの対応状況について。こちら、総務省の資料で電流協の調査によるアクセシビリティの実現レベルです。いまスライドで挙げているのは、0と1だけです。数字が大きくなるほどアクセシビリティに、より対応していることになります。コンテンツそのものの対応状況と、リーダーの対応状況と、2つに分けてレベルが決められています。レベル2以上を割愛したのは、現状2以上の電子書店がないからです。1は、海外勢が中心です。Kindle、GooglePlay、Apple。楽天Koboも、元々カナダの会社を楽天が買収したので、実質海外勢。この4社と、パピレスがやってるところ以外は、まったくアクセシビリティに対応していない、というのが一般向け電子書店の現状です。

 また、電子図書館サービスで言うと、植村さんが所属しているLibrariE & TRC-DLとか、阿部さんのベネッセですとか、Rakuten OverDriveなどがありますが、それぞれ音声読み上げに対応しています。

 一般向けに提供されているものに関しては、例えばスマートフォンで、OSに搭載されている読み上げの機能を使おうとしても、そのアプリ上では使えない。といった状況が出てきます。まとめるとこのような状態です。

 最後に補足をすると、コンテンツとかリーダーが対応してても、権利者が許諾をしない場合もあります。電子化されていない作品に関しても、同じようなことが言えます。権利者が電子は嫌だと言って断っているケースとか、読み上げは駄目だと許諾をしないケース。あるいは出版社とか電子書店側が忖度して、先回りして、読み上げは提供しないでおこうといった形で止めているようなケースもあるようです。といったところで私の発表は以上とさせていただきます。

 

 

植村: 鷹野さん、ありがとうございました。では、関根さん、準備をお願いします。

 

 出版社全体の状況、また、その中でのアクセシビリティという課題の状況としましては、こういった感じになっております。最後にお話があったのが、コンテンツと電子書店の利用とを分けて考えるということ、ぜひこの視点を持っていただきたいと思います。電子書籍・電子図書館のアクセシビリティについては、多くの場合でコンテンツのファイル形式をどうするか、先ほどの話でいえばEPUBリフローやPDFという辺りですが、こういうことが中心になりがちだと思います。ですが、アクセシビリティという観点からは、EPUBリフローがベストだろうという認識が、おそらく関係者の中では共有されてきていると思います。それを前提としたうえで、今お話にあったように、ビューアとか書店のサイトのアクセシビリティが厳しい状況にあると思います。この辺りを分けて捉える必要がありまして、なんでもかんでもコンテンツの問題ではないということです。

 今までは、先程の木谷さんのお話にありましたように、合理的配慮として紙の本からデータを作ってきたわけですけれども、せっかく労力を費やして作ったデータですので、集積して共有する仕組みが望まれます。現在、サピエ図書館といわれるものは、最初は「てんやく広場」という名前で作られたわけですが、そういった集積して共有する仕組に関わって仕事をしてこられました関根さんからお話を伺いたいと思います。お願いします。

 

 

関根: ご紹介いただきました関根と申します。このユーディットという会社は、横浜市青葉区にあります。自己紹介からはじめさせていただきます。

 

 これまでのお三方の話を聞いていて、なんで日本ってこうなんだ!という怒りが沸々とわき上がってきています。私はかつて日本IBMという会社におりました。アメリカに住む機会があり、街や図書館の中で沢山の障害者に出会ったのが、今の仕事の始まりです。街の中には障害のある人がたくさんいました。でも一番衝撃的だったのが、大学図書館で盲導犬を連れた人が端末で情報検索をしているのを見たときです。全盲の人が使えるコンピュータがあるということ自体、88年当時の私は知りませんでした。そのころ、日本には障害者が使えるコンピュータなんて、影も形もなかったからです。更に、その人たちがさまざまな方法で本を読んでいることにも驚きました。

 で、日本に帰ってきて二年後の92年に、社長に直訴しました。「世界では障害のある人がコンピュータを使える環境があります。アメリカとヨーロッパのIBMでは専門のセンターもあるそうです。なんで日本やアジアにないのですか。日本でもこういうのが必要です」って言ったら、「分かりました。じゃあ言い出しっぺのあなたがやって下さい」と、返す刀で斬られました。そうやって93年に日本IBMにSNSセンターが出来たのです。「えっ、SNS?関根さん、その頃からFacebookやTwitterやってたの?」って言われますが、もちろんそんなことはありません。93年はWindowsもインターネットもまだできてません。SNSというのは、Special Needs System、特別なニーズのある人のためのシステムの略です。

 で、ここで点字編集システムとかスクリーンリーダー、拡大ソフト、ホームページリーダーなどの製品を作って世の中に出してきました。視覚だけでなく聴覚や肢体不自由の方向けのものもあります。この点字編集システム、一般的にはBESと言われています。Braille Editing Systemの頭文字です。これで作られた膨大な量の点訳ファイルが、「てんやく広場」の中のデータベースになり、「ないーぶネット」になり、今では「サピエ」という図書館になっているのです。今日はこれに関係してくださっている方も沢山来ていらっしゃると思います。

 で、このSNSセンターで6年間、私はいわゆる障害者のアクセシビリティに関する仕事をしてたわけですが、だんだんそのIBMの環境が、多様性においては恵まれすぎていることに気が付きました。女性の役員もいるし、全盲の社員、例えば浅川智恵子さんみたいな人と一緒に仕事ができる。電動車椅子の人と一緒に働いて、ご飯を食べる。そういうユニバーサルな環境が、どうやら日本の行政とか企業には少ないことに気づいたのです。それで、日本をもっとユニバーサルにしようと思って、あっさりIBMを卒業したわけです。

 そうやって98年に作ったのが、株式会社ユーディット、情報のユニバーサルデザイン研究所です。障害のある人や高齢者、子育て中の方、介護離職した方などが全員テレワークで働き、ハードやソフトのアクセシビリティを高めるコンサルティングをするという会社です。

 ここで社長をしながらいろいろな大学にも講義に行っていたのですが、同志社大学から公募の話が来て、5年間政策学部の教授をさせてもらいました。教えていることはユニバーサルデザインとジェロントロジー、すなわち高齢学です。日本は世界一の高齢国家です。これから本を読む人たちもどんどん高齢化していく。この人たちの「読書権」を保障しなくてはならない。そういったことをずっと授業で議論しています。

 実際、ICTのユニバーサルデザインもかなり進んできました。左の写真はドコモのらくらくスマホで、富士通デザインが作っています。視覚障害のデザイナーが入社してから、富士通が作るものは劇的にユニバーサルデザインになりました。写真の右側はセブン銀行のATMです。これはNECデザインが作っています。ここに全盲の盲導犬ユーザーがデザイナーとして入ってから、NECが作る商品はどんどんアクセシブルになっていきました。障害のあるデザイナーがデザインに関わったので、これらの製品はアクセシブルになっていったわけです。

 書籍もまったく同じです。さっきAmazon Kindleの話が出ました。これは海外ではデザインの初めから、全盲、弱視、色覚障害、そして膨大な量を占める高齢者が、ちゃんと読むことができるようにユニバーサルデザインで作られているのです。大変美しい音声読み上げ機能や、拡大、色反転、フォントの選択などの機能がはじめから付いています。はじめからです。しかし日本では、残念ながら日本語読み上げに対応していないため、Kindleでそのまま読むことはできません。KindleアプリをiPhoneの中で立ち上げて、ボイスオーバーで読む以外、方法がない。すごく残念だと思います。

 なんで海外と日本でこんな差が出てきたのでしょうか?それは障害のある人々の、例えば読書をすることが人権の一部であるという概念、いわば「情報アクセスは人権である」という概念が、日本にはないからです。逆に言えば他の国は障害のある子どもたちが同級生と同じ本を読んで、一緒に勉強するのは人権であるとして保障されている。その違いです。

 さっき私が80年代の後半にアメリカの大学で、全盲の人がコンピュータにアクセスして書籍を検索していたことに感動した話をしましたよね。なんでそれができるのか。アメリカでは1986年にリハビリテーション法508条が成立していました。これは簡単に言えば、政府や公的機関、教育機関等が購入するハード、ソフト、アプリなどのあらゆるICT機器は障害者にアクセシブルなもの以外は買ってはならないという法律です。もし買っちゃったら買った人が提訴されます。民事罰のうえに刑事罰まであって、罰金取られたうえに、牢屋に入れられることもあるくらい厳しかったりします。これは86年の段階では罰則がなかったのですが、99年と16年に改正が行われて、強制法規としてどんどん厳しくなっていきました。

 IBMもAppleもAmazonもGoogleも、ハード、ソフト、コンテンツなどの全てにおいて、障害者に使えないものなんか作っちゃいけないんですよ。今SDGsって各国ですごく頑張ってるでしょ?環境によくないものを作ることは許されないってみんな思ってる。でも、人間にとってよくないものを作ることも、海外では許されないんですよ。こういった法律が海外では80年代から普通にありました。だから大学で買うコンピュータも、FAXも、携帯電話も全部、障害者に使えるものでなければ買っちゃいけない。これ100台のうち1台じゃないんですよ。100台買うんだったら100台が全部そうじゃなきゃいけない。

 これは日本の企業にとっては巨大な非関税障壁になりました。かつて巨大な世界市場をもちながら、今では跡形もなく消えてしまった日本製品も多いです。この508条の影響で、欧米のICTは、ユニバーサルデザインが「前提」になりました。

 UDでないものは買ってはいけない。作ってもいけない。使ってもいけない。それが普通になりました。学校やオフィス、図書館のユニバーサルデザインは最優先事項です。障害のある子どもたちが読めないような本を買ってはいけない。どうしたら一緒にクラスの中で、弱視の子も全盲の子も、自分の手でページをめくれない肢体不自由の子も発達障害の子もディスレクシア(学習障害)の子も、一緒に勉強できる環境になるんだろう。それを小学校から大学まで考えて、そういう製品ばかりを選ぶようになったわけです。

 大学の障害学生の割合ですが、先程の木谷先生のお話にもありましたけれど、大体欧米の場合は7から10%になっております。日本は、やっと1%くらいになったんですね。うれしいです。私たちが大学のUDに取り組み始めた頃は0.1%くらいしかいなかったんで、なんとかこれを1%くらいにしようと願っていました。

 しかし昨年、霞が関で、障害者雇用率の水増しという悲しい事件がおきました。私は、新聞に「ざんねんなくに日本」って記事を書いたくらいです。欧米の役所に行ってみて下さい。ホワイトハウスの中には、聴覚、視覚、肢体不自由の人がたくさんいます。割合は16%くらいといいます。それが普通なんですよ。みんなが、その人たちと一緒に仕事をするやり方を理解しているのです。

 だからこそICTや製品がUDであることは当たり前なんですね。アクセシビリティは、標準装備となるのです。職員が使えないものを買ったら仕事になりません。異動先のICTがアクセシブルでなかったら今日から困りますよね。だから、UDでないものを調達することが許されないのです。本も同じです。さっきオーディオブックの話が出ていました。アメリカの場合、紙の本と同時にオーディオブックを作るのは普通です。運転しながら最新刊を耳で聞く人がいるからですが、これは視覚障害者にとっても有難いことだったのです。今はKindle用に最初からデータファイルとして紙と同時に出版されるのが一般的です。海外でよく言われる言葉に“Born Digital = Born Accessible”があります。デジタルで作るものは、最初からいろいろな人たちに使えるようにしようという意味です。

 このアメリカの508条の影響を受けて、去年EUでも同じような法律ができました。” European Accessibility Act” 通称EAAです。例えば子どもが学校で使うテキストは誰もが使えるよう、アクセシブルでなくてはならないのです。フランスなど更に厳しい法律を定めています。

 また、アメリカには、Book Shareというプロジェクトもあります。新規の書籍はUD化を義務付けるとしても、元々紙で存在している本をどうすればアクセシブルにできるのでしょうか。Book Shareでは、障害のある子ども、学生、親、先生からの依頼を受けて、あらゆる本をテキスト化してくれます。OCRで読み取ってテキスト化し、ボランティアが正確に校正し、電子透かしを入れてほぼ1週間程度でその子の手元に届けます。これはデータベース化されています。Benetechというベンチャー企業が電子透かしの特別な技術を持っているので、ファイルが違法にコピーされることはありません。政府からも支援を受けており、インドやオーストラリアのような英語圏では、世界的なネットワークになっています。残念ながら日本は著作権の関係でこの仕組みは難しいのです。紙でもデジタルなものでも、みなアクセシブルにしていこう。それが世界の共通ルールなのですが。

 今日の発表では、京都大学が本当にがんばっていますね。私も同志社・京大・京都産業大学の3校で、大学コンソーシアムの中で「大学のユニバーサルデザイン研究」というプロジェクトをやりました。同志社には障害学生が100人くらいいるんですね。それを支援してくれるボランティアも400人ほどいます。しかし木谷先生がおっしゃったとおり、学術書の点字化は本当に難しいです。サピエ図書館には文学書はいっぱいあるのですが、学生が論文を書くための学術書は、ほとんど点訳されてないのです。これはそういう状況をなんとかしてアクセシブルにしていこうというプロジェクトでもありました。この写真には私の障害のある学生が障害のない学生に学内のバリアを教えているという状況が写っています。大学図書館やWebサイトのユニバーサルデザインもこのプロジェクトの中で調べました。

 大学は、学生たちに書籍のアクセシビリティをなんとか確保しようと必死になっています。でも、そうやって後からがんばってバリアをはずすのではなく、最初からユニバーサルデザインで考えてほしいのです。どんな書籍も作るときはデジタルで作ってるのだから、そのテキストを下さい。そうすれば障害に応じて、それぞれが内容にアクセスできるのですから。それが普通、当たり前になる日本であってほしい。

 障害のある子どもたちは、見えない動けないなどの障害があっても、能力的に何の違いもないことも多いのです。これは私たちがこれから歳を取って、本が読めなくなったときだって同じですよね?あなたの能力には何の違いもない。WHOの障害の定義が、本人の能力の問題ではなく「環境による」ものであると、私たちは知っています。書籍という環境が私たちにとってアクセシブルではないから、私たちは本を読めないだけなのです。この環境をどうしたら変えられるか。それがこれからの私たちの課題ではないかなと思っています。

 このあともいろいろ、皆さんとお話をさせていただきたいと思います。どうもご清聴ありがとうございました。

 

 

2. ディスカッション

 

植村: ありがとうございます。では、関根さん、そのまま壇上の席にお座りいただけますか。他の登壇者の皆様もどうぞ壇上にお上がり下さい。残り時間が20分そこそこになりました。これだけの顔ぶれの方にご登壇いただいて20分の議論というのももったいないので、少し時間を延長するかもしれませんので、ご了承ください。もしご都合などがある方は、どうぞご自由に出入りしていただければと思います。

 早速ですが、今の4名の皆様のお話を踏まえまして、少しずつ議論を進めていきたいと思います。関根さんのお話の最後にもありましたように、出版社はデータを持っているわけですので、なぜそれを最初から利用する環境ができないのかというところから議論を始めたいと思います。出版に関わることということで阿部さんと鷹野さんに質問させていただこうと思いますが、まず阿部さん、ベネッセも多くの本を出版されていて、その中の多くのものにデータがあると思います。こういったものを、健常な人も含めてとはいかないまでも、視覚障害や発達障害のある方に限って提供することがあり得てもいいと思うのですが、そうは進んでいない状況について、例えばベネッセに関しましてどのような事情がありそうでしょうか。

 

阿部: ベネッセに関しては、やや特殊で、出版流通に乗っているものは、実は結構少ないです。「たまごクラブ」とか「ひよこクラブ」といった雑誌媒体はありますが、書籍がほとんどありません。「進研ゼミ」のような通信教育は直販ですので、我々から直接教材を届けています。その中でご要望いただく範囲で、データを渡しているケースを聞いたことはあります。ただ、書籍でいうと、我々のところに今は、そういった事例がありません。

 

 

植村: ありがとうございます。鷹野さんは、どうでしょう。出版業界を見渡していただいて、この辺りについて、どういった事情がありそうか、推測できるお話とかありそうでしょうか。

 

 

鷹野: 先程、大手はデジタルで出版している率が高いと言いました。問題は中小です。それはコスト的なことや、制作フローの問題になるかと思います。一番アナログな、紙の原稿を印刷会社に渡して、印刷会社側でその版を作って、ゲラを印刷して、ゲラに赤入れして戻す、というやり方がイメージしやすいと思います。この場合、出版社にはデータがありません。データは印刷会社にある。

 

 大手の場合、制作工程が内製化されているので、内部でデータを持っています。ただ、出版社の多くは中小なんですよね。最近だと1人出版社という形もあります。データが手元にない状態で「データが欲しい」と言われても、提供するには印刷会社にデータ化をお願いする必要がある。テキストデータを作ってもらうには、新たにコストをかける必要がある、ということがネックになっていると思います。

 

植村: 鷹野さん、その続きでもう1点伺いたいんですけど、先ほど、大手はデジタル化をすることで、最近はむしろデジタル化のほうで収益をあげつつあると伺いました。もしそうであるなら、中小もデジタル化を進めることで、そちらで収益をあげる方向に向かえばいいと思いますが、この辺りにつきまして、どのような状況になっていますでしょうか。

 

 

鷹野: 現状、デジタルの出版市場を引っ張ってるのは、8割がマンガです。マンガを出してない出版社は、悲しいことに儲かっていません。マンガを出してなくて、雑誌が収益の大きな柱だったところは、かなり厳しいのが現状です。電子の文字物市場は、まだ2%ちょっとしかありません。文字物のタマが増えないことには市場が広がらないはずなのに、儲からないからと電子化をしない、という負のスパイラルに陥っています。

 

 いっぽう、マンガで儲かっているところは、そこがけん引して、儲かってる分を文字モノ電子化に回す、みたいな好循環ができつつあるのではないでしょうか。

 

植村: 電子書籍のアクセシビリティということで言うと、マンガをアクセシブルにすることはかなり大変なことです。文字物は、こうすればいいという案がある程度見え始めているんですけれどもよりハードルが高いマンガが市場の中心を占めていることが、電子書籍のアクセシビリティが進まない事情の一つかもしれません。

 

 このあたりに関連して木谷さんにお伺いしたいんですけれども、出版社には、収益との関連でデジタル化を勧められない、あるいは、デジタルを持っていても印刷会社にデータがあって出しにくいという状況があります。しかし、そのために投げ出されてしまうと、先程、京大でも250ページほどの本を1冊データ化するのに30万くらいかかると言われたと思いますけど、この辺りのコストということについて、何かお考えなどはありますか。

 

木谷: 先程の発表でもお伝えしたとおり、個々の大学でどこまで負担できるのか。国公立大学と私立大学、あるいは短大や高専など、さまざまな規模、形態の高等教育機関があります。負担できる大学とそうでない大学といった差もおそらく出てくるでしょうし、そういった格差が生まれていいのかということも問題です。

 

 そうしたことを考えると、視点をもう少し上に上げる必要があると思います。今日、行政関係の方が来られているかは分からないですけれども、つまり、先程皆さんのお話にあった市場の拡大も確かに一つの方向性ではあると思いますが、もう一方で、やはり法的義務として、あるいは権利や平等といった観点からも考えていかないといけないということです。これはよく大学の図書館の方と話をしているんですけれども、もし出版の段階で、国立国会図書館になんらかのデータを提供することが義務づけられているならば、そこからデータを得ることができます。それがどんなデータであったとしても、非常にありがたいものになると思います。

 だから、市場の拡大を待つよりも、もう少し喫緊の課題として、インフラとして整えていくことを考えてもいいのではないかと思っています。

 

植村: ありがとうございます。今、国立国会図書館で収集してという話がありましたが、海外との比較でいいますと、先程の関根さんのお話の中で、アメリカのBOOKSHAREのお話がありました。似た例としてフランスの例を紹介させていただきますと、フランスでは、国立図書館が大きな役割を果たしています。つまり、障害者団体から国立図書館に対して、こういった本のデータが欲しいとリクエストをすると、国立図書館が出版社にデータの請求をします。そうすると、出版社はそのデータを国立図書館に渡し、そして国立図書館はそのデータをリクエストをした障害者団体に渡すという形になっています。間に国立図書館が入ることで障害者と出版社を仲介し、確実で、かつ漏洩することがないシステムを作っているということだと思います。関根さん、こういった出版社からデータを提供してもらって障害者に渡す仕組みについて、国際比較というところで、何かコメントいただけますでしょうか。

 

 

関根: 私も全世界を知っているわけではありませんが、今植村さんがおっしゃられたフランスのケースは、そのおかげで非常に沢山のデータがデジタル化されて、国立国会図書館経由で障害者団体に渡っていると伺っています。

 

 BOOKSHAREの場合も少なくとも小学校で使われてるテキストとか参考図書は、もうほとんどカバーされています。あの中では特殊な電子透かしの技術を入れているので、他の人に、不法に渡せないような、そういった技術的なサポートがなされています。これも日本の技術を使えば全然問題なくできるはずなので。日本でも同じような形でやって欲しいなと思います。

 また、昔、長尾真先生とお話したときに、日本中の書籍をもっとアクセシブルにできないかと、国立国会図書館でも常に考えているとおっしゃっていました。それがなかなか実現しないまま今日にいたっていることがもどかしくて仕方がない。スペインでもイタリアでも、電子書籍は、障害のある人に読めるよう、情報アクセシビリティが進んでいます。

 日本ではどうしたらうまくいくのでしょうか?例えばリハ法508条のように、基本的にアクセシブルなもの以外買わない、作ってもいけないと決めてしまいましょう。コンテンツもそこに入れていくのです。そうすると出版社の側としては、全国の図書館や公共の書店に一切置いてもらえないと困るので、はじめからアクセシブルにしていくモチベーションが上がると思います。市場に任せていては、売れるものしか電子化しないので間に合わないです。

 市場に関して言えばアメリカのKindleの場合は、最初から巨大な高齢者市場を狙ったともいえます。お金を払ってKindleを買う人の6割が実はシニアであると言われます。シニアは音声読み上げと画面拡大を併用しながら読みたいというニーズがあるので、デジタルブックであることはとても重要なのです。書籍のアクセシビリティは、市場が大きいというところからも進んだのです。ですから法律と市場との両方で考えていく必要があると思います。

 

植村: 法律と市場の両面があるということだと思いますが、そういった意味では、今年、日本では読書バリアフリー法ができました。ですが、罰則がない理念法になっていまして、出版社や図書館の自発的取り組みに期待しているという面があります。ですので、いわば市場に出るものは市場に任せているという法律の状況になっています。

 

 

鷹野: 植村さん、発言いいですか? 日本の国立国会図書館でも、電子書籍・電子雑誌の納本制度を実現するために実証実験を2015年からやっていて、来年1月末に実証実験が終わる予定になっています。国会図書館に電子書籍を納本する流れが、近々、制度的にできる予定です。

 

 

植村: ありがとうございます。この件、非常に期待しているところです。日本の国立国会図書館への電子書籍の納本が、ぜひ進んて欲しいと思っています。この集積したものの配信に際しても、日本にいる人全員に対してというのはハードルが高いかもしれませんので、先程のフランスの例のように視覚障害等の人に限定する形でもいいですので、そういった仕組みができることに、とても期待します。

 

 せっかくこの話になりましたので、阿部さんどうでしょう。ベネッセとしてというとご発言が難しいと思いますので、阿部さん個人の感想ということで結構ですが、もし国の何らかの機関でそういった仕組みができるとすると、その実現可能性みたいなところで、どのように思われますでしょうか。

 

阿部: 個人的な意見としては、納本する義務があるんであれば当然やるべきだとは思います。我々は、先程言ったようなデータの持ち方をしてるという意味では、納本する準備はある程度できていると思います。ただ、全ての本というと難しいかなと思っています。たぶん他社さんもそうでしょうけど、コミックス型の本をどうやってアクセシブルにするかという課題があります。これには相当なコストがかかりますので、段階が出てくるという感じはします。

 

 

植村: コミックスとか、データ形式でいうと画像形式になると思いますが、本当に大変だと思います。

 

 先程、木谷さんから、この際だからPDFでもいいんですというお話があったと思います。この辺りについて少し伺いたいんですけど、従来、こういった視覚障害、ディスレクシア等の人たちに対して紙の本をデータにするとき、画像形式ではなく、テキストデータや、あるいはテキストDAISYとか、テキストが入っている形式を基本に考えてきたと思います。木谷さんがPDFでもいいと言われることについて、どのような意図でしょうか。

 

木谷: もちろん、スクリーンリーダーの読み上げに対応しているとか、リフロー形式であるとか、そういったものは理想形としてはあると思います。あくまで大学でデータ化することを前提に考えればの話です。先程、作業手順のところでお示ししたように、最初の段階で紙をデータにするとき、アナログに私たちスタッフがコピー機で1枚1枚ページをスキャンしていくという作業があります。まずこの作業が省略できるだけでも大きいと思います。そして、場合によっては書籍を裁断して、一気にスキャンすることもあるんですが、ほとんどの学生が本当は裁断して欲しくないと言います。自分で読めない本をわざわざ紙で購入して、それをスキャンしてデータ化するんですけれども、読めない本であったとしても、そのままで持っておきたいという学生がほとんどです。なので、データがあるというだけで、いろいろな点で良いいという話です。

 

 ほかにも、弱視の学生なんかは、PDFがあればタブレットなどで拡大して読むこともできるし、自分でページをめくれない学生もタブレットの画面に触るだけでページがめくれるとか、PDFでもかなり助かる学生がいるので、データには紙とは違う可能性があると思います。

 

植村: ありがとうございます。本のアクセシビリティについての話は、何気に前提にしているのが、視覚障害の中でも全盲の人だったりします。先ほどから段を上がったり降りたりしているところをご覧になっていて、皆様もお気づきかと思いますけれども、私も視覚障害がありまして、ほぼ全盲です。明暗がわかるくらいで、物を見て何かを判断する視力は、全くありません。従来の議論では、こういった人たちが本を読むにはどうしたらいいかが、議論の中心に据えられてきました。それは、よりニーズの強度が高いからだと思いますが、木谷さんのお話は、それだけではないということです。

 

 大学に進学する学生の中に障害のある人が増えてきて、視覚障害だけでなく、いろんな障害の人が増えてきました。あるいは、視覚障害であっても弱視の人も多くいます。PDFであっても、弱視の人であれば拡大して読むとか、データであればさまざまな使い方で利用できる可能性があります。テキストデータがあればそれに越したことはないかもしれませんけれども、例えテキストデータでなくても、それを便利に使う人たちもいます。ですので、PDFなどの画像データに対するニーズも、相当程度にあるということだと思います。一方、全盲の視覚障害の人にとっては、テキストが入った形式でなければ音声で読めませんので、テキストデータに対するニーズも、今も尚高い状況にあると思います。

 そこで、関根さん、もう一点、質問させていただきたいと思います。関根さんは、「てんやく広場」を作られたわけですけれども、いろんなところで作られた点字データを集積して、登録していく過程があると思います。その本が何という本か、書名、著者名、発行年、出版社名とか、そういったメタデータをきちんと入れていかないと、集めたのはいいが利用しようとするときに見つけられないということになります。見つけられなければ読まれないというのは、先程の鷹野さんの売ってないものは読まれないというお話と同じで、せっかく集積しても読まれないということになってしまいます。そういった意味で、「てんやく広場」を作られる中で、見つけてもらうためにどういった工夫をされたとか、そのあたりはいかがでしょうか。

 

関根: 正確に言えば私は「てんやく広場」そのものを作ったわけではありません。あのファイルを作るための点字編集システムですね。BES(Braille Editing System)の開発や販売を中心にやっていました。

 

 でも、今おっしゃられたところはとても大事です。「てんやく広場」のデータベースを作るときには、当然ながらメタデータの作り方がとても重要でした。これはITの本当に基本的なルールでもありますけれども、「検索できないものは存在しない」のです。これは私たちがウェブアクセシビリティのJIS規格を作ったときとまったく同じ考え方です。障害者側で、検索して引っかかってこないものは存在しないと思ったほうがいい。インターネットの中に見つからないものは、世の中にないと同じことになるのです。

 ですからメタデータに関していえば今おっしゃったとおりです。「てんやく広場」の中でも、最初に作る段階から、著書の著者名、発行年、出版社。そういったデータをきっちりメタデータにしてそれで載せていく。本体とは別にそれをタグ付けしていく作業は明確にやっていました。どうやっていたか、細かいところまでは知りません。それは浅川智恵子さんなどのチームがやっていて、私はそのファイルを作る側のソフトを担当していたのです。すみません。

 

植村: ありがとうございます。こちらこそすみませんでした。そうしますと、木谷さん、お伺いしたいんですけれども、障害学生支援の関係の方々とお話していると、集積の話は、必ず出ると思います。その中でいろんな課題が出されて、蓄積され始めていると思いますが、今、どういった課題が認識され始めていますでしょうか。

 

 

木谷: 先程の発表で少しだけ触れたんですけれども、今、大学図書館を中心に、校正したデータを国立国会図書館に送信する取り組みを始めています。他の大学や他の障害のある方にも使っていただけるようにデータを提供する仕組みです。

 

 その際、国立国会図書館が公開されている仕様書に則って本当に厳密に校正をしようとすると、とても時間がかかってしまいます。例えば、個別の合理的配慮としてやるならば、必要としている学生自身は、例えば2章だけでいいんですとか、校正はそこまで厳密でなくても、ある程度読めたらいいんですとか、それぞれニーズの違い、濃淡があります。1ヵ月かかっていたら間に合わない、1週間後の授業で必要なんですといったニーズです。

 何を優先するか、どういった目的でデータ化するのか、そういったことが、支援室が個別の合理的配慮の提供としてやる場合と、図書館なりがデータの共有、蓄積も視野に入れてやっていく場合とでは違ってくると思います。少しずれてしまうというか。

 

植村: 合理的配慮として対応する場合、個人のニーズに対応するわけですので、1冊全体が作られているわけではないとか、校正の水準もバラバラだったりします。あちこちの大学の障害学生支援室でデータが作られて散在しているので、それを集めることで有効活用しようという案が出てきます。ですが、実際に集めてみるとどう使えるかという問題に直面します。そういった意味で、合理的配慮として対応するしかない部分もあるとはいっても、合理的配慮でだけ対応しているとこういった結果になってしまうということだと思います。難しい課題だと思います。

 

 それで、鷹野さん、先ほどの検索して見つからないものはないも同然というあたりで伺いたいと思います。出版社は本を電子書籍ストアに登録するわけですけれども、検索して見つけるという辺りについて、どういった工夫をされていますでしょうか。

 

鷹野: いま出版業界では、JPO出版情報登録センター(JPRO)が、書誌データを一元管理するようになっています。出版物の総合カタログが必要だということで、紙に関しては250万点がメタデータを含めてデータベース化されています。電子書籍は、まだ20万点ぐらい。その電子書籍のデータ登録を促進するためにちょうどいまキャンペーンをやってて、いまなら登録料無料です。

 

 そのメタデータがちゃんと整備されるようになると、今度それが書店とか図書館向けにも提供されて、書店や図書館が仕入れをするときにも使う。だから、出版社が登録をすると本が売れるようになる、という好循環が回っていくことを狙ってデータベースを構築しています。

 

植村: 追加して質問させてください。そのデータベースに、データ形式の項目はあるのでしょうか。何が伺いたいかというと、EPUBリフローであることが分かるか、あるいはなにがしかアクセシビリティについて配慮されたコンテンツであるかどうかが分かる項目があるといいのですが、そのあたり、何かありそうでしょうか。

 

 

鷹野: ごめんなさいちょっとそこまでは分からないんですけど。

 

 

植村: すみません、ありがとうございます。ぜひそういった項目が加わってほしいと思います。

 

 お時間のほうが17時を過ぎてきまして、そろそろ終わらなければならなくなって参りました。申し訳ありません。最後になりますけれども、ご登壇の4人の皆様に一言ずつお願いしたいと思います。今日のご感想でも、あるいは日々の業務において今後に向けてということでも結構です。ご発表いただいた阿部さんから木谷さん、鷹野さん、関根さんの順にお願いしたいと思います。

 

阿部: 我々は教育を主体としてやっている事業ですが、まだアクセシビリティに対応できるとは言えない状況です。ただ、学ぶことの難しい方たちに向けたアクセシビリティ、つまり、データとしてのアクセシビリティだけではなくて、学習に向き合う力のようなアクセシビリティも含めたところは、ぜひやっていきたいと考えていますので、期待していただければと思います。ありがとうございました。

 

 

木谷: 最後の言葉とかあんまり用意してなかったんですけれども。個々の場面で、つまり大学は大学、出版社は出版社で、それぞれでやれることはあると思います。今年、読書のバリアフリー法ができて、先日文科省のほうで協議会も立ち上がりました。これから議論が始まろうとしています。この法律がさまざまな関連分野にしっかり普及して、意味のある動きが出てくることを期待して、私も日々頑張りたいと思います。

 

 

鷹野: コンテンツのデジタル化に関して、コストの問題が大きいです。先程阿部さんがビジネスとしてサスティナブルでなければいけない。と仰ってましたけど。ビジネスではないところで考えた場合に、国がちゃんとそういう予算を付けたほうがいいと思います。そういうロビーイングがまず必要だと思います。もう一つは、ぼくは準認定ファンドレイザーという資格を持ってるんですけど、国に頼らない形で、例えばクラウドファンディングで集めるとか、そういう資金集めの工夫をもっとすることも、必要だと思いました。以上です。

 

 

関根: クラウドファンディングという言葉が出ましたが、私はできたらこの書籍のデジタル化を「クラウドソーシング」でできないかと思っています。中小企業の出版社が、このファイルをデジタルにするぞというときにこのプラットフォームがあって。そこにポンと投げると今度はさまざまなボランティアのグループが「じゃあ分かった。これ僕、元々医学系だから医学用語が正しいかどうか校正してあげるよ」というメンバーがクラウドの中でノウハウを持ち寄って。その中で「これだったらオッケー!」というデータを出していく。ネットの中で、そういった技術が使えたらという気がします。

 

 また、障害者がこのページだけ読みたいというときには普通に手許で読めるような技術が、イスラエルのオーカムマイアイや、Google Glassなどから、今どんどん出てきています。日本語の環境でもかなりきちんと読んでくれます。

 これから世の中は技術的にもどんどん進んでいきますので、書籍のアクセシビリティについても、皆さんから、こんな機能がほしい、こうしたらもっとよくなると提案していただけると、さらに進むのではと思っています。ありがとうございました。

 

植村: ありがとうございました。この後、ご登壇いただいた皆様はしばらくフロアにいらっしゃると思います。フロアにいらっしゃる皆様からもご質問がありましたら、お声がけいただきたいと思います。

 

 こういった視覚障害等の方々が本を読むにはさまざまな困難があり、相変わらずその多くを今でも自助努力で担わなければならない状況にあります。こういう状況を改善するためには、出版社や図書館、皆様のご協力が必要になります。自分であれば何ができるのかをお考えいただけると、そこから一つ一つ解決策が出てくるのだろうと思います。ぜひ今後もご関心をお持ちいただき、ご協力をお願いしたいと思います。

 時間を延長してしまいまして、申し訳ありませんでした。それではこれでフォーラム「読書バリアフリーは知をすべての人に開くか?」を終了したいと思います。どうもありがとうございました。

 

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