電子書籍では代替できない資料「布の絵本」提供の現状と課題

石堂彩、大田陽香、釜井美咲、木村由紀乃、藤佳純、前川晴香(50音順)
統括・責任著者 片山ふみ
※画像インデックスに使用している布の絵本は前川晴香による作品です。
 


アブストラクト

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大によって、図書館界は前例のない対応に追われてきた。この状況下において、非来館型のサービスが注目を浴びたそこで我々は、非来館型サービスに着目し、さらに、直接触れることでしか本領を発揮できない布の絵本に着目し、非来館型サービスとしてとらえた場合の布の絵本の提供状況を把握し、課題について考察することを目的として共同研究を実施した
 関東地方、近畿地方、それぞれ7都道府県の市区立図書館の中から等間隔抽出法にて抽出した70館を対象に各図書館のwebサイトおよびOPACを調査した結果、布の絵本のOPACにおけるファインダビリティが極めて低いこと、非来館型の利用を想定した場合、布の絵本の利用は極めて困難であることなどの課題が明らかとなった。これらの課題に対して、すでに実施されている工夫などから着想を得て、いくつかの解決方法を提案した。


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サムネ

全体:約12分
0:17~:研究背景と目的
2:08~:語句の定義

3:50~:研究方法
5:10~:調査結果
8:45~:考察
10:30~:まとめ

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1. 研究背景と目的

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大によって、図書館界は前例のない対応に追われてきた。この状況下において、非来館型のサービスが注目を浴びた。たとえば、電子書籍の提供拡大や、無料や有料の郵送サービス(貸出・返却)の実施、オンラインでの受付・レファレンスサービスの実施・利用指導などである。

このような中で私たちは、図書館の利用に格差が生じているのではないかという疑問をもった。日本の図書館は、国民の教育を受ける権利を保障するため無料で利用できることが図書館法第十七条によって規定されている。また、図書館員としての基本姿勢を示す指針「図書館の自由に関する宣言」には、「すべての国民は、いつでもその必要とする資料を入手し利用する権利を有」し「この権利を社会的に保障することに責任を負う機関」が公立図書館であると明示されている。一方で、コロナ禍における日本の電子書籍やオンラインサービスの拡充は、電子書籍を閲覧する端末やネット環境のない利用者、コンピュータスキルをもたない利用者にとっては情報の得にくい状況をもたらしてしまうのではないかと懸念される。もちろんこの懸念はそれらの環境が整えば払拭されるものであるが少なくとも移行期においてはこの問題が生じ得る。

この格差の解消の一つの突破口が郵送サービスに代表される実物を手に取ることができる非来館型サービスではないだろうか。そこで我々は、非来館型サービスに着目し、さらに、直接触れることでしか本領を発揮できない、つまり電子書籍では代替できない資料として布の絵本を取り上げることとした。本研究では、非来館型サービスとしてとらえた場合の布の絵本の提供状況を把握し、課題について考察することを目的とする

2. 先行研究と本研究の立ち位置

 公共図書館における布の絵本についての先行研究には、①実践報告、②実証研究、③制度的研究などがある。特に①が多く、③が少ない傾向にある。

①実践報告

 布の絵本の作り方や提供方法について紹介するものである。小西[1]や柴田[2]、松永[3]などの報告があり、いずれも障害児を対象としてどのようにサービスを展開しているのかを取材、調査、あるいは報告している。

②実証研究 

 公共図書館における布の絵本という資料の位置づけや役割を明らかにしようとしたり布の絵本の有効性を明らかにしようとしたりする研究が含まれる。林は布の絵本やユニバーサル絵本に関連するいくつかの論文を発表している。たとえば、関連する用語の定義を丁寧にまとめ、外国の図書館や日本における取り組み事例を紹介するとともに、布の絵本を提供する図書館員に求められる事柄を考察した研究[4]や、布の絵本の質を向上させるためのいくつかの視点の提示と分析をおこなった研究[5]がある。また、早瀬による障害児にとっての布の絵本の有効性を明らかにする研究[6]や、郭による布の絵本制作作業および制作された布の絵本を用いた幼児への指導が、保育実践力を高める効果を明らかにした研究[7]などがある。

③制度的研究

布の絵本をとりまくきまりに着目した研究である。すでに紹介した研究のなかにも制度面に触れるものは存在するが、制度面を主たる目的に据えて取り組まれた研究として山本によるものがある。山本は布の著作権の観点から公立図書館における布の絵本の扱いについて検討している[8]。特に問題となる「伝統的な‘紙の絵本’もしくは第三者の創作した‘布の絵本’を原著作物とする」ような二次的(派生的)著作物(布の絵本)と著作権についてどのような点が阻害要因となるのか、望ましい対応について述べている。

本研究は②の実証研究に分類される。すでに紹介した、②に該当する研究では、来館して布の絵本を利用することを前提に研究が行われている。本研究は、現在のような来館できない状況で布絵本を利用するために公立図書館はどのような工夫をしているのか、あるいは、どのような障害があるのかを検討するために試みるものであり、来館しない形式での布の絵本の提供状況に着目する点に新規性があると考えている。

3. 語句の定義

 ここでは、本研究で研究対象とする布の絵本の定義および公立図書館における図書館資料としての位置づけを確認する。それに伴い関連用語である、障害者サービスやユニバーサルデザイン絵本・バリアフリー絵本についても述べる。

3.1 布の絵本

3.1.1 定義

『絵本の辞典』 [9]によると、布の絵本は絵本を読む・見る・理解する・めくるなどにバリアがある場合、それに対応するアプローチを持った絵本であるバリアフリー絵本(3.2参照)の一つとして位置づけられている。『DINF 障害保健福祉研究情報システム』[10]によると、布の絵本とは絵本+遊具・教具であり、表紙本文全てが布で製本され(一部だけ布はさわる絵本)フェルトでカットされた絵の部分が台布に縫い付けてあるだけでは無く、ボタン、スナップ、カギホック、マジックテープ、ヒモ、ファスナーなどを用いて、はずす、はめる、取る、つける、ほどく、結ぶなどの手指の作動を伴いながら言葉の獲得を楽しく学習できる絵本と定義づけている。『図書館情報学用語辞典』[11]はそれに加えて絵本と遊具を兼ねた手作りの図書と定義している。つまり公立図書館における布の絵本とは手作りの布絵本であり、大量生産される市販のものとは区別されている

 

3.1.2 布の絵本の対象者

『DINF 障害保健福祉研究情報システム』によると、当初は全盲の児童の為に作成していたが、現在は脳や手指に障害のある人だけでは無く、愛情不足の非障害児、交通事故や脳梗塞などによって機能障害のある大人のリハビリとしても使われ、誰もが楽しめると説明されている。

また、『絵本の辞典』には、障害者向けの布絵本はほとんどが手作りで、商業出版されている布の絵本はほとんどが遊具を兼ねた赤ちゃん用と記述がある。

図書館における布の絵本についてみてみると、国際図書館連盟(IFLA)による「児童図書館サービスのためのガイドライン:0 歳から 18 歳 改訂版」(Guidelines for Library Services to Children aged 0-18)のなかでは、一般の図書館でそろえることが望ましい資料のひとつとして「触れたり匂いを嗅いだり音を聞いたりできる資料」[12]が挙げられており、布の絵本は「触れたり」する資料に該当するといえる。これより、布の絵本は図書館における児童資料の一つとして世界的に重要な位置づけとなっていることがわかる。『図書館情報学用語辞典』には健常児を含めて遊具、機能回復訓練教材として使用されるとされる。バリアの解消を前提とした絵本として障害者向けのサービスと位置付けられながら、全ての人々が対象となっている為、定義に少し曖昧な所があることがわかる。「図書館資料としての布の絵本」[5]には布の絵本は障害程度が中程度以上精神発達延滞児の興味関心を引き出す遊具として適当とし、一方で自閉的傾向児や重度障害児童にはあまり適しておらず、視覚障害児にもほとんど使用されていなかったという研究結果が紹介されていた。ここから、布の絵本が利用対象者を障害者とそのほかの人々と広く定義しているものの、絵本の機能的な意味では布の絵本が適していない人々も存在することが分かる。

3.2ユニバーサルデザインとバリアフリー

 3.1.1で示したように布の絵本はバリアフリー絵本の下位概念として定義されることがある。ここではバリアフリーとその類似概念であるユニバーサルデザインについて定義および公立図書館における考え方を確認する。本項は、文献[4][13][14]をもとにまとめる。

 ユニバーサルデザインとは、文化・言語の違い、老若男女といった差異、障害・能力の如何を問わずに、利用することができる施設・製品・情報の設計(デザイン)のことを指す。つまり、すべての人が利用することを初めから考慮して、結果として「バリア」を作り出さないことを目的としているものである。類似概念である「バリアフリー」は、すでにあるバリアを後からはずす,あるいは何かを追加してなんとか使えるようにしていくというものであるのに対し、「ユニバーサルデザイン」は、最初から誰にでも使いやすいようにつくられているという点が違いとして挙げられる。同じ「バリアを無くす」という目的やアクセシビリティ(利用可能性) の確保という意味があっても、「バリア」を最初から考慮するのか、後から考慮するのかによって、その目的に対する姿勢の違いも明らかになっていると考えられる。

21世紀に入り、日本は、超高齢国家、女性の社会進出、インターネットの普及、グローバル化の影響で、それまでの、健康な成人男性を基準にして行政施策や製品開発を行っていた時代から、ユニバーサルな考え方が必要な時代へと変化した。この変化によって、図書館においても、必然的にユニバーサルデザインの需要が高まったというわけである。

現在、多くの公立図書館では、様々なユニバーサルデザインが取り入れられている。例えば、施設として、書架の間に車いすがすれ違うことができる広めのスペースをとったり、授乳室が設けられたりしている。資料の面では、「ユニバーサルデザイン」がコンセプトのユニバーサルデザイン絵本や大活字本などの所蔵がある。情報の設計としては、タッチパネル機能付きの蔵書検索機や読み上げ機能付き端末などが設置されている。このように、ユニバーサルデザインが広まっている中でも、利用しにくい環境がある点やユニバーサルデザイン絵本に関しては、資料数が少ないことや著作権への配慮すべき点があるという現状を図書館が打破することが、課題であると考える。

3.3 障害者サービス

2で示したように本研究で取り上げる布の絵本は障害者サービスの文脈で扱われることも多くある。よって、ここでは障害者サービスの定義を確認しておく。

『図書館情報学用語辞典第5版』[11]によると、障害者サービスとは、視覚障害、聴覚障害、肢体障害、永続する内部(内蔵機能)障害、それに学習障害などその他の心身障害を持つ人々に対して、図書館が提供するサービスのことを指す。具体的には、点字資料、録音資料、拡大資料、拡大写本、字幕付きビデオテープ、手話付きビデオテープの収集と提供、対面朗読、点訳、音訳、墨字訳、家庭配本が含まれる。広義には、障害者を図書館利用に障害を持つ人々とみなし、民族的、言語的、文化的少数者(マイノリティ住民)、高齢者、病院など施設にいる人を含める。障害者への対象別サービス、特別なサービスを指しているわけではない。

また、障害者サービスに関与する視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(読書バリアフリー法)という法律がある。この法律は2019年6月に成立し、障害者団体や日本図書館協会を含む図書館関係団体等が積極的に推進議連総会等において法制定に関与しできたものである。第一条に、

視覚障害者等の読書環境の整備を総合的かつ計画的に推進し、もって障害の有無にかかわらずすべての国民が等しく読書を通じて文字の活字文化の恵沢を享受することができる社会の実現に寄与することを目的とする。(一部抜粋)

という記述がある。この法律の中にある「視覚障害者等」というのは、視覚障害、発達障害、肢体不自由その他の障害を持つ人を指し示している。読書バリアフリー法では、図書館の障害者サービスを受け、基本的な障害者サービスの他に、すべての国民が読書環境に対して不便さを感じないように、整備する取り組みが行われている[15]。

4. 研究方法

本研究では来館できない状況下での布の絵本の提供状況を明らかにすることを目的としている。そこで、遠隔からも利用が可能な手法として、インターネットでアクセス可能な情報からどのように各図書館の布の絵本の利用が可能になっているのかを把握する。

4.1 プレ調査

調査に先立ち、プレ調査として政令指定都市の図書館における布絵本の提供状況をインターネットで確認した。対象とした図書館は、札幌市、仙台市、新潟氏、さいたま市、千葉市、川崎市、横浜市、相模原市、静岡市、浜松市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市の中央図書館である。プレ調査によって、図書館によって布の絵本の扱い(検索方法、所蔵状況、利用対象など)が異なることが明らかとなった。

4.2 本調査

 各図書館のOPACによる所蔵調査と各図書館webサイトで提供される布の絵本に関する情報を調査する。この調査の目的は図書館によってどのような違いがあるのかをより丁寧に洗い出すこと、すなわち布の絵本利用にあたっての課題を考察するための材料を収集することである。母集団は、東日本と西日本、両者の状況を把握するため、関東地方、近畿地方、それぞれ7都道府県の市区立図書館とした。中央館をメインの調査対象とし、分館・分室・サービスポイントについては補足的に調査を実施した。『日本の図書館:統計と名簿2020』の配列から等間隔抽出法にて各都道府県5館ずつ選定し、標本となった市区は以下の通りである。表記は『日本の図書館統計と名簿』に準じている。

茨城 : ゆうき、高萩市立、つくば市立、那珂市立、行方市立
栃木: 足利市立、佐野市立、日光市立今市、真岡市立、矢板市立
群馬 : 高崎市立、伊勢崎市、沼田市立、渋川市立、富岡市立
埼玉 : 飯能市立、鴻巣市立、入間市立、北本市立、鶴ケ島市立
千葉 : 松戸市立、佐倉市立、市原市立、君津市立、白井市立
東京 : 町田市立、清瀬市立、千代田区立、大田区立、葛飾区立
神奈川:鎌倉市、茅ケ崎市立、秦野市立、伊勢原市立、南足柄市立
三重 : 鈴鹿市立、尾鷲市立、鳥羽市立、いなべ市、伊賀市
滋賀 : 長浜市立、草津市立、栗東市立、野洲、高島市立
京都 : 宮津市立、城陽市立、長岡京市立、京田辺市立、南丹市
大阪 : 枚方市立、寝屋川市立、箕面市立、高石市立、交野市立
兵庫 : 姫路市立、洲本市立、豊岡市立、宝塚市立、小野市立
奈良 : 奈良市立、大和郡山市立、橿原市立、生駒市、葛城市立
和歌山:和歌山市民、田辺市立、新宮市立、紀の川市立、岩出市立

プレ調査によっておおまかに明らかとなった状況から、調査項目を次のように設定した。調査結果は、Excelで作成したシートに記入していく方式とし、調査は執筆者全員で行った。一つの館について2名以上が担当し、ダブルチェックできる体制をとった。調査期間は、2021年6月から7月であった。

表1:調査項目

調査項目 Excelシートへの記入方法
OPACにおける検索 キーワード:「ふきのとう文庫」「布絵本」「布の絵本」「布えほん」で検索しヒットするか否か(布絵本の作り方に関する資料などノイズがないか目視でチェックする)、またどのキーワードでヒットするか
このほか、図書館独自の布の絵本へのアクセス方法の有無をチェックする
所蔵の有無 OPACで検索のうえ、布の絵本の所蔵の有無を記入する
所蔵についての附記 目視でだいたいの所蔵数を把握する
そのほか、何か気付きがあった場合はメモする
分類 どのような分類番号になっているのかを記入する
予約の可否 布の絵本の予約の可否を記入する
配架場所 「開架」「閉架」「資料によって開架か閉架がだいたい半々」「開架が多い」「閉架が多い」について記入する
貸出の可否 禁退出か否かを把握する。貸出の可否について記入する
利用対象 「障害者」、「児童」、「一般」、「その他」(その他の場合は説明も書く)について記入する
郵送サービスの可否 布の絵本が郵送サービス対象か否かを記入する

 

5. 調査結果と考察

ここでは、主要な調査結果について述べ、考察を行う。

5.1 OPACおよびwebサイトの状況からみえる布の絵本情報へのファインダビリティ

 OPACにて「ふきのとう文庫」「布絵本」「布の絵本」「布えほん」でキーワード検索を行い、布の絵本がヒットするか否かを検索した。図書館によってどの検索語でヒットするかはバラバラだったが、おおむね候補のいずれかのキーワードでヒットすることが多かった。しかし、布の絵本の作り方や市販の布の絵本(定義で述べたようにこれは厳密には布の絵本ではない)、あるいは布の絵本ではないタイトルなどのノイズも多くこれらは目視で除去するしかなかった。加えて、「ふきのとう文庫」「布絵本」「布の絵本」「布えほん」以外の検索語でヒットする可能性を踏まえて、検索エンジンで図書館名とこれらのキーワードのAND検索も行った。こうした検索エンジンによる補足的な検索によって布の絵本の所蔵が明らかになる場合もあった。たとえば図書館の公式ツイートで、布の絵本制作にかかわるボランティアの紹介があったことから所蔵の可能性が推察され、著者名にボランティア名をいれて検索することによってOPACで所蔵が確認できるような事例である(神奈川:茅ケ崎市立)。

以上のような検索の結果、中央館で布の絵本の所蔵が確認できたのは、70館中12館だった(群馬:高崎市立、埼玉:鴻巣市立、鶴ケ島市立、千葉:君津市立、東京:葛飾区立、清瀬市立、神奈川:茅ケ崎市立、南足柄市立、三重:伊賀市、滋賀:長浜市立、京都:長岡京市立、奈良:橿原市立)。一方で、中央館では所蔵がないものの、分室や分館でのみ所蔵する例もみられた(群馬:伊勢崎市、埼玉:飯能市立、東京:大田区立、大阪:枚方市立、京都:南丹市)。なお、すでに述べたように図書館業界における布の絵本の厳密な定義は「手作り」であるため市販品とは区別されると考えられるが、これらの結果には市販の布の絵本も含めている。市販のものを除き手作りの布絵本に限定した場合、中央館での所蔵が確認できたのは70館中8館(埼玉:鴻巣市立、鶴ケ島市立、千葉:君津市立、東京:葛飾区立、清瀬市立、神奈川:茅ケ崎市立、南足柄市立、三重:伊賀市)である。

 また、地域による偏りも指摘できる。所蔵のあった12館をみてみると、関西圏よりも関東圏の所蔵が多いことがわかる。また、関東は各県で複数の図書館の所蔵がみとめられるように分散しているが、関西は県に1館などと特定の図書館に集中していることに加え、所蔵があっても所蔵数が少なかったり、手作りのものがなかったり(滋賀:長浜市立、京都:長岡京市立、奈良:橿原市立)、配架場所が閉架(滋賀:長浜市立、京都:長岡京市立、奈良:橿原市立)であり手に取りにくい箇所であったりした。

 以上より、Webで確認できる範囲での布の絵本の所蔵状況は布の絵本を広く捉えたとしても20%に満たない状態であり、また地域による偏りもあることから、世界的に重要な位置づけとなっている資料の扱いとしては充実しているとは言いにくい状況にある。ただし、布の絵本を検索できる資料としていない可能性や、上記検索方法ではヒットしていない可能性なども踏まえると、この点はさらなる調査の必要がある。少なくとも、布の絵本を特定するための検索語が定まっておらず、所蔵の有無が把握しにくいこと、またヒットしたものがノイズである場合も多いがその判断がしづらいことの2点を指摘でき、これらによって、布の絵本情報へのファインダビリティが著しく低い状況が生み出されているといえる。

そこで、布の絵本の検索をわかりやすくするための方法として統制語の利用、ジャンル検索の利用、図書館サイト内での特設ページの設置などの方法を提案したい。またノイズの判別のために、検索結果では布の絵本の書影をみられるようにする、形態についての注記を付すなどの工夫が効果的ではないかと考える。すでに、鴻巣市立ではトップページから「布絵本」ページをたどれ、鶴ケ島市立ではこどものページから「ぬのえほん」ページがたどれるようになっており、いずれも写真付きの一覧が確認できる。また長岡京市立では形態注記として布製の記載がみとめられる。これらか検索の補助として有効に働いていた。

5.2 布絵本の請求記号

5.1にて、布の絵本のファンダビリティ向上のために統制語の利用の提案をしたが、ここでは、主題検索のためのもう一つの手法である分類についての現状を確認すべく請求記号の状況を把握する。

図1絵本を表す別置記号Eを採用している図書館が最も多く、次いでNDCであった。NDCでは3類、5類、9類など図書館によって分類は異なっていた。また市販の布の絵本をE、手作りの布の絵本を5類とするなど区別した分類をしている図書館もあった(葛飾区立)。その他では、布の絵本(Nuno no Ehon)を表すと推察されるNEが割り振られている図書館もあれば、何の省略かは不明であるがNN、CEといった記号も見られた。いずれにせよ布の絵本に対して、独自の請求記号が割り当てられていれば、その記号をアクセスポイントとして布の絵本の特定が可能となり、ファインダビリティ向上につながるのではないだろうか

5.3 布の絵本の館外利用について

 5.1で示した中央館で布の絵本を所蔵している図書館12館について貸出の可否を確認したところ、全ての図書館で貸出および予約可能であった。一部の図書館で布の絵本の予約数に制限を設けている図書館もみられたが、原則的には一般資料と同様の提供状況であるといえる。郵送サービス、宅配サービスについては各図書館のWebサイトから情報を得られず不明の図書館が多いが、情報を得られた図書館3館(伊賀市、長浜市立、長岡京市立)すべてが障害者のみサービス対象としていた。布の絵本は児童コーナーで提供されていることも多い(高崎市立、鶴ケ島市立、君津市立、葛飾区立、茅ケ崎市立、伊賀市)ため、障害の有無にかかわらず利用対象として児童が想定されていることがうかがえる。そのため、当然子どもおよび児童資料を利用する大人が布の絵本を借りたいというニーズが想定され得るが、郵送サービス対象ではないため利用はできないこととなる。このように非来館型の図書館利用を想定した場合、触ることが重要な布の絵本という資料は資料としての価値が発揮できないことになる可能性を指摘できる

6. おわりに

本研究では、非来館型サービスとしての布の絵本提供状況を明らかにし、課題を洗い出すことを目的として、関東圏、関西圏の市区立図書館70館のWebサイトに対して調査を実施した。その結果、布の絵本のOPACにおけるファインダビリティが極めて低いこと、非来館型の利用を想定した場合、布の絵本の利用は極めて困難であることなどの課題が明らかとなった。これらの課題に対して、すでに実施されている工夫などから着想を得て、いくつかの解決方法を提案した。

 今後の課題として次のような点が考えられる。本研究は、もともとコロナ禍において助長される可能性のある格差を解消するための手段として非来館型サービスに着目した。しかし、インターネット環境ありきの調査を実施したため、ネット環境のない人への配慮が行き届いていない点が大きな課題である。電話、郵便等あらゆる手段で図書館にアクセスする可能性を踏まえた調査を実施し、補足していく必要があるだろう。また、今回関東と関西でやや傾向の違いがあることを見出したが、具体的にどのような要因が布の絵本の扱いの違いをもたらすのかを、図書館自体や設置母体となる自治体の状況を踏まえてマクロな視点で分析していくことによりより丁寧な考察が可能となるものと考える。加えて、中央館に着目した調査を実施したが、布の絵本の所蔵が分館・分室のみという場合も多く、調査範囲を広げてそうした理由に迫ることも重要な観点ではないかと思料する。

引用・参考文献一覧

[1]小西萬知子. さわる絵本 : 大阪での試み. 図書館界. 2001, 53(4), p.442-454.

[2]柴田沙智子. 特集, ボランティアとの協働を考える: 粕屋町立図書館と布絵本ボランティア : 布で遊ぶおひさまの会の活動を通して. 図書館雑誌. 2019, 113(9), p.622-623.

[3]松永恵子. 特集, ボランティアとの協働を考える: 布絵本の温かさを子どもたちに. 図書館雑誌. 2019, 113(9), p.623-624.

[4]林左和子. 公共図書館児童サービスとユニバーサルデザイン絵本. 静岡文化芸術大学研究紀要. 2012, (12), p.59-66.

[5]林左和子. 図書館資料としての布の絵本. 静岡文化芸術大学研究紀要. 2016, (16), p.71-78.

[6]早瀬伸子. 障害児の遊具としての布の絵本 : 障害児の文化的側面へ福祉活動を続けるふきのとう文庫の活動の結実として. 情緒障害教育研究紀要. 1987, (6), p.85-92.

[7]郭小蘭. 学生の保育実践力を高めるゼミ研究の教学効果についての考察 : 幼児向け布絵本制作実践例. 会津大学短期大学部研究年報. 2015, (72), p.87-93.

[8]山本順一. 著作権法的視角からみた'布の絵本'についての試論的検討. 桃山学院大学経済経営論集. 2016, 57(3), p.49-65.

[9] 中川素子ほか. 絵本の辞典. 朝倉書店, 2011, 672p.

[10] “東京布の絵本連絡会の活動”. 障害保険福祉研究情報システム. https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/book/0802_watanabe_cpb.html, (参照 2021-10-18).

[11]日本図書館情報学会用語辞典編集委員会. 図書館情報学用語辞典 第5版. 丸善出版, 2020

[12]“ 児童図書館サービスの ためのガイドライン: 0 歳から 18 歳 改訂版”. IFLA. https://www.ifla.org/wp-content/uploads/2019/05/assets/libraries-for-children-and-ya/publications/ifla-guidelines-for-library-services-to-children_aged-0-18-ja.pdf, (参照 2021-10-18).

[13] 関根千佳. 特集, 図書館のリニューアル: 図書館のユニバーサルデザイン. 情報の科学と技術. 2005 , 55(11), p.506-511.

[14] NPO法人ユニバーサルデザイン絵本センター. http://inyo.nichigai.co.jp/, (参照 2021-10-19).

[15]佐藤聖一. 特集, ◎読書バリアフリー法と図書館: 読書バリアフリー法と公共図書館等の障害者サービス. 図書館雑誌. 2020, 114(4), p.180-183.

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