世界料理を召し上がれ!
『世界を食べよう!』書影

世界各地のエキスパートが食べてきた、
世界の料理帖

 

サブタイトルが示しているとおり、本書の執筆陣は、主に東京外国語大学で教鞭をとる教員たち。つまり、専門としている国・地域をたびたび訪れ、言葉をたくみに操り、その文化や歴史に精通している人たちによる、その国・地域の食にまつわるエッセイ&レシピ集です。

 

世界中の食文化を1冊で網羅しているのが魅力で、2015年の刊行以来、幾たびの増刷を重ねてきました。

カンボジア料理「ノム・ボンチョック」、モンゴル料理「ボーズ(包子)」、中国料理「揚州炒飯」

レシピもうんちくも現地仕込み

 

執筆者たちが、実際に各地で見て・驚いて・食べて・教わってきたエピソードが並んでいます。

 

たとえば、スペイン美術史が専門の久米順子先生は、スペインの庶民が食べてきた主食のパンや豆類について、カスティーリャ語の慣用表現から説明をします。

 

"Son las lentejas. Si quieres, las tomas; si no, las dejas"は、直訳すると「レンズ豆だ、食いたきゃ食え、いやなら残せ」だが、意味するところは「ほかに選択肢はない」である。"Contigo, pan y cebolla"という表現もあり、こちらは「あなたとならばパンとたまねぎしか食べられなくてもかまわない、あなたさえいればいい」という口説き文句。要するに安い食材の代表ということなのだろう。(p.178)

 

また、ペルシア文学が専門の佐々木あや乃先生にかかれば、ザクロの説明はこのとおり。

 

柘榴はペルシア語では「アナール」と呼ばれ、省略形の「ナール」は「火」という意味も含む。目にも鮮やかな真紅の柘榴は真っ赤に燃え盛る火とも通ずるところがあるためだろうか。ペルシア文学では宝石箱やルビーは言わずもがな、麗人の唇や胸、血の涙(号泣して涙を流し尽くしたさまをこう表現する)、人が微笑むさままでも柘榴に喩える。(…)「柘榴が裂けるように」とは、心が千々に裂けるさまを表す文学的表現である。(pp.104-105)

ブラジル料理「フェイジョアーダ」、イギリス料理「ジェパーズ・パイ」、イタリア料理「スパゲッティ・アッラ・カルボナーラ」

うんちくのみならず、レシピも現地仕様です。

 

ロシア料理の「塩漬けきのこ」の作り方は、「① 森へきのこ狩りに行く。食用きのこと毒きのこを峻別すること」から始まります。

 

タンザニアで食べられる「鶏肉シチュー」の材料のトップは「鶏肉 1羽」。それを、「① 鶏をつぶし、羽をむしって、食べやすい大きさに切る」ところから調理開始です。

 

もちろん、手に入りやすい材料で、一般的な家庭の台所で調理可能なレシピもありますので、ご安心ください。

インドネシア料理「パダン料理」、フィリピン料理「ギナタアンビロビロ」、ミャンマー料理「寄進用油煮」

食から各地を知る・世界を知る

 

世界各地の料理と聞くと、その土地に固有の産物を材料にして、伝統的なレシピで作られたものを想像されるかもしれません。でも、そればかりではありません。現代の日本の日常的な食事が和食ばかりでないように、国外・地域外からもたらされた材料や料理が食卓に並ぶのは、いずこも同じ。

 

イタリア料理といえば、真っ赤なトマトを思い浮かべますが、トマトの原産地は南アメリカ。イタリアには観葉植物として持ち込まれ、トマトソースのパスタが普及したのは約150年前とのこと。イギリスからの移民の子孫が主流のオーストラリアでは、イギリスの食文化が根づいています。スペイン、次いでアメリカの植民地となったフィリピンを代表する家庭料理「アドボ」は、スペイン語の「マリネする(adobar)」に由来し、「アドボにはコーラがよく合う」のだそうです。

 

典型的な「国名+料理」を挙げにくいところもあります。マレーシア人はマレー人、マレー人以外の先住民族、華人、インド人などと他民族のため、「マレーシア料理」も多彩。かつてのオスマン帝国の領土があまりにも広大だったために、「トルコ料理」は定義が難しいようです。

 

さまざまな時代の、人々のグローバルな移動が、現在の世界各地の食文化を彩っていることを、読みながら、食べながら、味わい尽くすことができるのです。

ラオス料理「タム・マークフン」、ロシア料理「ボルシチ」、アメリカ料理「ステーキサンドイッチ」

 


本書で食文化を紹介する30の国・地域

 『世界を食べよう!』でエッセイとレシピを紹介している国と地域を地図に示しています

東アジア

  • 中国料理 川島郁夫
  • 韓国料理 南潤珍
  • 台湾料理 谷口龍子
  • モンゴル料理 岡田和行

東南アジア

  • ベトナム料理 野平宗弘
  • カンボジア料理 岡田知子
  • ラオス料理 鈴木玲子
  • タイ料理 宮田敏之/スニサー・ウィッタヤーパンヤーノン
  • ミャンマー料理 土佐桂子
  • フィリピン料理 長屋尚典
  • マレーシア料理 左右田直規
  • インドネシア料理 青山亨

 南アジア/西アジア

  • ベンガル料理 丹羽京子
  • インド料理 水野善文
  • イラン料理 佐々木あや乃
  • アラブ料理 八木久美子
  • トルコ料理 林佳世子

 東ヨーロッパ/中央ヨーロッパ

  • ロシア料理 沼野恭子
  • リトアニア料理 櫻井映子
  • セルビア料理 山崎佳代子
  • ポーランド料理 森田耕司
  • ドイツ料理 山口裕之/西岡あかね

西ヨーロッパ/南ヨーロッパ

  • フランス料理 博多かおる
  • イタリア料理 小田原琳
  • スペイン料理 久米順子
  • イギリス料理 狩野キャロライン
  • ポルトガル・ブラジル料理 武田千香

 アメリカ/オセアニア/アフリカ

  • アメリカ料理 鶴田知佳子
  • オーストラリア・ニューギニア料理 山内由理子
  • アフリカ料理 坂井真紀子

 世界を食べよう! 東京外国語大学の世界料理

『世界を食べよう!』書影単独 [編] 沼野恭子
 [判・頁]A5判・並製・224頁
 [本体]1800円+税
 [ISBN]978-4-904575-49-9 C0095
 [発行日]2015年10月30日
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イベントの有無
無し
担当者
東京外国語大学出版会編集部
電話
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